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浦和地方裁判所 平成11年(行ウ)37号 判決 2000年12月04日

原告

被告

所沢税務署長 村岡昭博

右指定代理人

住川洋英

小山博実

金谷滝夫

内田秀明

豊岡晴朗

馬場忠則

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

理由

第一原告の請求

一  被告が原告に対し、平成九年一二月一九日付けでした平成七年分の所得税の更正処分のうち、還付金の額に相当する税額一四七万九四〇七円を下回る部分及び重加算税の賦課決定処分を取り消す。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

第二事案の概要

一  原告が平成七年分の所得税について、総所得金額を〇円、還付金の額に相当する税額を一四七万九四〇七円とする確定申告(以下「本件確定申告」という。)をしたところ、被告は、原告に対し、総所得金額を一一七〇万九七二四円、還付金の額に相当する税額を四万八五〇〇円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした上、更に重加算税の額を四八万三〇〇〇円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。そこで、原告は、右両処分を不服として、被告に対する異議申立て、国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、いずれも棄却されたことから、本件更正処分の一部及び本件賦課決定処分の取消しを求めて本訴に及んだ。

二  前提となる事実(争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実)

1  原告は、昭和三七年頃から、肩書地において、原告の父親である乙らと同一の建物内に居住して寝食を共にして生活をしており、住民票上、乙と同一世帯(乙が世帯主)を構成している。

2  原告は、平成八年二月二六日、被告に対し、平成七年分の所得税について、総所得金額を〇円、還付金の額に相当する税額を一四七万九四〇七円とする本件確定申告をした。

原告は、その際に提出した「平成七年分収支内訳書(不動産所得用)」において、原告は乙に対して、不動産所得をあげるために乙から賃借した土地の平成七年分の地代として三六万円を支払ったとし、これを原告の不動産所得の必要経費に算入すべきものとして記載した。

また、原告は、平成七年一二月二六日、原告所有の株式会社Aの個人正会員の会員権(以下「本件会員権」という。)を、株式会社B(以下「B社」という。)に対して、七〇〇万円で売却(以下「本件売買」という。)したとして、本件確定申告書に、収入金額を七〇〇万円、必要経費を二一六一万八〇〇〇円(必要経費の内訳は、平成元年五月にC株式会社から購入した取得金額二一〇〇万円に名義書換料の六一万八〇〇〇円を加算した金額である。)、差引き長期譲渡所得の金額を損失一四六一万八〇〇〇円と記載した。

3  被告は、本件確定申告に対し、次のとおり判断した。

(一) 乙と原告とは「生計を一にする」親族であると認定できるから、不動産所得に関して、原告の乙に対する三六万円の地代の支払については、所得税法五六条が適用され、必要経費への算入は認められない。

(二) 本件売買は、本件会員権の価格の下落による損失を譲渡損失として申告することによって、所得税の還付を受けるための仮装のものと認定できるから、所得税法三三条一項に規定する資産の譲渡に該当することは否定され、長期譲渡所得の計算の対象外とする。

(三) 更に、本件売買を国税通則法六八条一項の規定にいう「事実の仮装」と認定する。

4  以上の判断に基づき、被告は、平成九年一二月一九日付けで、原告に対し、原告の平成七年分の所得税について、総所得金額を一一七〇万九七二四円、還付金の額に相当する税額を四万八五〇〇円とする本件更正処分をし、更に、重加算税の額を四八万三〇〇〇円とする本件賦課決定処分をした。

5  本件更正処分及び本件賦課決定処分の計算根拠は、次のとおりである。

(一) 本件更正処分について

(1) 総所得金額 一一七〇万九七二四円

内訳は左表のとおり。(△は損失)

<省略>

右不動産所得の金額の内訳(△は損失)

<省略>

<省略>

(2) 所得控除額 二八五万九九二七円

(3) 課税される所得金額 八八四万九〇〇〇円

これは、総所得金額から所得控除額を控除した金額(ただし、国税通則法一一八条一項により千円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。

(4) 算出税額 一四三万九八〇〇円

これは、課税される所得金額に所得税法八九条(平成六年法律第一〇九号による改正後のもの。)に規定する税率を適用して算出した金額である。

(5) 特別減税額 五万〇〇〇〇円

これは、平成七年分所得税の特別減税のための臨時措置法(平成六年法律第一一〇号)四条の規定を適用して算出した特別減税額である。

(6) 源泉徴収税額 一四三万八三〇〇円

(7) 還付金の額に相当する税額 四万八五〇〇円

これは、(4)の金額から(5)及び(6)の金額を控除した金額(国税通則法一一九条一項により一〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの。)である。

(二) 本件賦課決定処分について

重加算税四八万三〇〇〇円は、本件売買が仮装であるとの前記判断に基づき、本件更正処分によって原告が新たに納付すべきこととされた税額一四三万〇九〇〇円のうち、国税通則法六八条一項の規定にいう「事実の仮装」に基づかないと認定した税額の四万一一〇〇円を控除した税額一三八万円(国税通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後の金額)に、一〇〇分の三五の割合を乗じた金額である。

6  原告は、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として、平成一〇年二月一七日、被告に対し、異議申立てをしたが、被告は、同年六月二三日付けで右異議申立てをいずれも棄却した。

7  原告は、同年七月二一日、国税不服審判所長に対し、右各処分について審査請求をしたが、同所長は、平成一一年六月一四日付けで右審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし、右裁決書は、そのころ原告に送達されたので、同年八月二三日、本訴に及んだ。

三  争点に関する当事者の主張

1  争点一(乙に対する地代の支払いと不動産所得の必要経費)

(一) 被告の主張

(1) 所得税法五六条所定の「生計を一にする」とは、一般的には、同一の生活単位に属し、相助けて共同の生活を営み、ないしは日常生活の糧を共通にしていることと解されていることから、親族が同一の家屋に起居している場合にも、明らかに互いに独立した生活を営んでいる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとされているところ、原告と乙とは同一の家屋に起居し、食事を共にするなど日常の生活を共にしていること及び食費及び水道光熱費などの共通経費について実費の精算が行われていないことから、原告と乙とは明らかに独立して生計を営んでいるものではなく、生計を一にしていると認めるのが相当である。

したがって、原告主張の乙に対する地代の支払は、必要経費に算入することはできない。

(2) 所得税法五六条は、元々個人事業は家族全体の協力のもとで家族の財産を共同で管理、使用して成り立つものが多く、それについて必ずしも個々の対価を支払う慣行があるとはいえず、対価が支払われる場合であっても、支払われた対価をそのまま必要経費として認めることとすると、個人事業者がその所得を恣意的に家族に分散して不当に税負担の軽減を図るおそれが生じ、また、適正な対価の認定を行うことも実際上困難であることから、そのような方法による税負担の回避を防止するために設けられたものと解されており、事柄の性質に即応して合理的と認められる取扱いであって、憲法一四条一項に違反するものではない。

(一) 原告の主張

(1) 原告の電話番号が乙と同一であることや、食事を共にすることのみで、生計を一にすると断定することはできない。

原告と乙は、同一事業に従事しておらず、社会保険も別団体である。更に、原告は専ら自己のために使用する乗用車を所有し、燃料費も独自に支払っている。加えて、原告と乙は、冠婚葬祭への対応も独自に対応しており、場合によっては双方が対応することもしばしばあった。

したがって、原告と乙は生計を一にしていない。

(2) 居住者が、親族である土地建物の所有者から当該土地建物を賃借している場合、右親族と同居している居住者は、賃料を不動産所得の必要経費と認められないのに対し、同居していない居住者は、賃料を不動産所得の必要経費と認められることを認める所得税法五六条は、同居親族と別居親族を差別するもので、憲法一四条一項に違反する。

(3) 生計を一にする親族が資産を貸付けた場合には、所得税法五六条の適用があるとは明示されていないので、本件について同法は適用されない。

2  争点二(本件売買の仮装行為性)

本件売買は、真実の売買意思の伴わない仮装のものか。

(一) 被告の主張

本件会員権の売買は、原告が本件会員権の価格の下落による損失を譲渡損失として申告することにより、所得税の還付を受けるという経済的動機から、あたかも本件会員権の譲渡があったかのように取引の形式を整えたものにすぎず、実体の伴わない仮装のものである。

したがって、本件会員権の譲渡は、所得税法三三条一項に規定する「資産の譲渡」があったと認めることはできない。

また、本件売買は、国税通則法六八条一項の規定にいう事実の仮装にも該当する。

(二) 原告の主張

本件売買は、その対価を貸金の返済に充てるために行った、真意に基づくものであって、仮装行為ではない。

原告が、本件売買後もゴルフ場でプレーしたのは、会員権の名義書換が承認されるであろうと推測される平成八年二月中旬ころまで、Aが原告をメンバーとして取り扱っているだろうと考えたので、それまでゴルフをプレーし、その期間を過ぎた同年二月中旬以降、同年六月二二日までプレーしなかったのであり、これは本件売買について、原告に真の売買意思があったからである。

また、原告は、平成七年一二月ころには、Dへの転籍が決まっており、また、平成五年三月五日に、原告は、Dから、一五〇〇万円の融資を受けており、この金を返済しなければならなかったことから、本件会員権を売却しなければならなかった。そして、原告は、平成七年一二月二六日に、現実に右融資を全額返済した。

第三争点に関する判断

一  争点一(地代の支払と必要経費)について

1  証拠(乙一ないし四、九ないし一一、二五、二八号証)及び弁論の全趣旨によると、前記の事実のほか、更に次の事実を認めることができる。

(一) 乙は、Eの代表者であり、原告が同居している肩書地記載の建物は、同社の事務所もかねた乙の自宅である。原告は、妻子とともに同建物に同居し、乙夫婦と寝食を共にして共同生活を営み、住民票上、乙を世帯主とする同一世帯を構成していることは前記のとおりである。

(二) 原告らの世帯の光熱費等の取扱いは、次のとおりである。

(1) 所沢市水道部との給水契約は、昭和六一年二月一日、乙名義で締結されている。

(2) 東京電力株式会社との電気供給契約は、Eとの間で締結され、料金は、F所沢支店のE名義の普通預金口座から支払われている。

(3) 日本電信電話株式会社(現在は日本電信電話株式会社)との電話通信設備利用契約は、Eとの間で締結され、料金は、前記E名義の普通預金口座から支払われている。

(4) なお、日本放送協会の受信料等は、原告が負担していた。

(三) 原告らの世帯における食費、光熱費等の負担については、原告と乙の間では、一か月当たり、原告が一〇万円、乙が七万円を負担するという概括的な合意があったもの、それ以上原告と乙の間で実費での精算がされていたことを認めるに足りる証拠はない。

(四) 原告は、平成七年一二月三一日までFに勤務し、乙は、Eの代表取締役として報酬を得ていたため、両者は勤務先を異にし、したがって、社会保険も別団体に加入していた。また、原告は自己のために使用する乗用車を所有し、その燃料費も自ら独自に支払っている上、冠婚葬祭等の対応も乙とは別々に行っていた。

2  所得税法五六条は、納税義務者と生計を一にする親族が納税義務者の営む事業に従事したことなどにより当該事業から対価の支払いを受ける場合には、その対価に相当する金額を納税義務者の事業所得、不動産所得等の金額等の計算上必要経費に算入しないものとし、他方、その親族のその対価に係る各種所得の計算上必要経費に算入されるべき金額を納税義務者の事業所得等の計算上必要経費に算入することとしている。

そして、ここにいう生計を一にするとは、同一の生活単位に属し、相助けて共同の生活を営み、ないしは日常生活の糧を共通にしていることと解される。

これを本件についてみると、前記の事実関係、特に、原告の家族と乙の家族が同一の建物内で寝食を共にしていること、住民票上も乙を世帯主とする同一世帯であること、光熱費等についての供給契約がほとんど乙またはE名義で締結され、これらに要する経費について内部的には一応の負担割合が定められているものの、原告と乙との間で実額精算が行われているとは認められないことなどを考慮すると、たとえ、原告と乙が同一の勤務先に勤めていないこと、社会保険の加入団体が別であること、原告が自己のために使用する乗用車を所有し、燃料も独自に支払っていること、冠婚葬祭等の対応も別々に行っていることなど、前記の事情があるとしても、これらは、原告が乙とは独立した生活を営んでいると認める事情としては不十分というべきであるから、結局、原告は、乙と同一の生活単位に属し、相助けて共同の生活を営み、ないしは日常生活の糧を共通にしていると認めるのが相当であって、前条の規定にいう生計を一にしている関係にあるというべきである。

そうすると、原告の不動産所得の計算に当たっては、所得税法五六条が適用され、乙に対する三六万円の地代の支払いは、不動産所得の金額等の計算上必要経費に算入されないものというべきであるから、これと同旨の被告の判断は正当というべきである。

3  なお、原告は、所得税法五六条の規定は、憲法一四条一項に違反すると主張し、前記のとおり主張する。

しかしながら、同条の規定は、元々個人事業は家族全体の協力のもとで家族の財産を共同で管理、使用して成り立つものが多く、それについて、家族間で、必ずしも個々の対価を支払う慣行があるとはいえず、対価が支払われる場合であっても、支払われた対価をそのまま必要経費として認めると、個人事業者がその所得を恣意的に家族に分散して不当に税負担の軽減を図るおそれが生じ、また、適正な対価の認定を行うことも実際上困難であることから、そのような方法による税負担の回避を防止するために設けられたものと解されるのであって、それ自体合理的な根拠を有するものである。

そして、右規定は、同居の有無自体ではなく、生計を一にするか否かによりその適用の有無が区別されるのであって、そのことは前記の右規定の目的を実現するための合理的な区別であり(原告は、乙と同居しているからではなく、生計を一にするから同条が適用されるのである。)、これをもって憲法一四条一項に反するということはできない。

なお、原告は、同条の規定は、資産の貸付けについては適用されないと主張するが、前記説示に照らし理由がない。

二  争点二(本件売買の仮装行為性)について

1  証拠(甲二、三、七ないし一〇、乙五ないし八、一二ないし二九号証)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、平成元年五月、C株式会社から、本件会員権(前名義人・丙)を、二一〇〇万円で購入し、その際、名義書換料として、六一万八〇〇〇円を支払った。

(二) Aでは、会員について、以下のような取扱いを行っており、このうち(2)ないし(4)については、ゴルフ会員権を取り扱う業者にも周知の事実である。

(1) 名義変更手続きについて

会員の名義変更手続きは、毎月月末までに提出された名義変更申請に基づき、翌月一五日ころに開催される理事会の承認を得た後、新会員に対して承認通知と名義変更料の振込依頼を発送する。

振込依頼は、通知後二週間以内に振込みがされることを内容とし、名義変更料の振込みがあった時点で会員の変更処理を行う。

(2) 個人会員については、住民票の住所及び氏名を登録することとされ、団体名での登録はできない。

(3) 利殖目的で会員権を売買することを防止するため、会員権を一旦譲り渡した後には、再入会することはできない。

(4) 譲渡に際しては、預託金証券のほか、メンバーズカード(パス型会員証)、ネームプレート等の引継ぎが必要とされる。

(5) Aの会員にのみ参加資格がある月例杯の申込みは、開催当日の一週間前までに行われ、受付の際にメンバーズカードの確認がされる。

(三) 原告は、勤務先のFの一般慣行にならい、平成七年六月一日付けでD株式会社(以下「D」という。)に出向し、同年一二月三一日付けをもってFを退職し、平成八年一月一日から、Dへ転籍した。

右退職に先立ち、平成七年一二月二九日、Fから原告の同銀行丸ノ内支店の普通預金口座(以下「本件普通預金口座」という。)に、退職金三四七一万四三〇〇円が振り込まれた

(四) ところで、原告は、同月二一日ころから同月二六日ころにかけて、Bの丁と交渉し、同月二六日付けで、原告が本件会員権をBに売り渡したとするゴルフ会員権取引計算書等の書類を作成(これが本件売買に当たる。)し、同日、Bから、原告の本件普通預金口座に七〇〇万円が支払われた。

なお、中原と原告は、古くからの友人でFの元同僚であり、本件当時も親しく交際している間柄であった。

また、ゴルフ会員権の代金は慣行上、現金決済で行われていたが、本件では、前記のとおり、Bから、原告の本件普通預金口座に代金を振り込む手続きが行われた。

(五) Bのような仲介業者は、ゴルフ会員権を取得した場合、取引相手を捜すために速やかに取引の情報を業者間に流すのが通常であるが、丁は、同日以後も本件会員権についての業者間情報を流さず、また、譲渡手続に必要な原告の印鑑登録証明書の有効期間が切れた後にもその再交付などの請求をしないなど、本件会員権につき何ら転売のための手続をせず、そのため、本件会員権は第三者に売買されなかった。

更に、本件会員権の譲渡に当たっては、原告と丁の間でBの取得すべき取引手数料の支払約束及び授受がされておらず、メンバーズカード、ネームプレートなどの引継ぎもされなかった。

(六) 原告は、本件売買の日である平成七年一二月二六日以後も、平成八年一月三日から、同年二月八日まで、Aの高崎コースにおいて個人正会員として五回にわたりプレーし、そのうち二回(同年一月一五日及び二月四日)は、会員のみ参加資格がある月例会に参加した。

(七) 平成八年一月ころから、ゴルフ会員権の仮装売買で所得税の不正還付を受ける例が日刊紙に記事として登載され、それを受けて、平成八年四月一七日付けで、関東ゴルフ会員権取引業協同組合から、組合員であるゴルフ会員権取引業者に対して、注意事項が発信されるなどした。

(八) その後、原告と丁の間での協議の結果、平成八年六月七日付けで、原告が、あるいはG代表甲の名称で、Bから、本件会員権を七一〇万円で買い戻す旨のゴルフ会員権取引計算書が作成された(以下「本件買戻契約」という。)。

また、これと同時に代金完済証明書が原告からBに交付されたが、Bの取得すべき手数料(慣行上、売買価格の一、二パーセント程度とされる。)は支払われず、買戻代金と本件売買時の代金額七〇〇万円との差額一〇万円は、この間の金利に相当するものと解されていた。

なお、本件買戻当時のAの会員権の時価は約七八〇万円であり、本件買戻は、相場を下回る取引であった。

(九) 平成八年六月二三日以後、原告は、再び個人正会員としてAでのプレーを続けたが、この一連の経緯を通じて、Bは、Aに対して、G名義への名義変更手続きを一切行わなかった。

2  以上の事実関係に基づき、本件売買が仮装行為と認められるか否かにつき検討する。

(一) 以上の事実を総合すると、<1>原告は、本件売買があったとされる日から六か月後に、同一のゴルフ会員権を再び売買で取得したことになっていること、<2>本件売買後も、原告は正会員しかプレーできない月例会を含め五回にわたり個人正会員としてプレーしていること(本件売買の際に、Bに対し、少なくともメンバーズカードの交付をしていないことは前記のとおりである。)、<3>本件売買及び本件買戻し時のいずれにおいても、Bの担当者は、原告と旧知の仲であった上、Bに対する手数料支払はされていないし、更に、本件売買後、Bは、本件会員権の第三者への売却の努力を全くしていないこと、<4>本件会員権の再取得価格は、本件売買時の価格とほぼ同額であるだけではなく、当時の時価に比較して約七〇万円も安い価格であること、<5>原告は、本件会員権の再取得の際、ことさら自己名義を用いずGという名称を使用しているが、これは、会員権の売主と買主が同一人物であることを明確にしないための措置と推認されること、<6>Bの担当者は、ゴルフ会員権の取引に通暁しており、Aの個人会員は、個人名を登録することが要求されており、Gなどという団体名での登録はできないこと、譲渡後の再入会は禁止されていること、更には、所得税逃れのゴルフ会員権の売買の事例などを知悉しているにもかかわらず、前記のように本件売買や買戻しの書類作成を手伝っていること等の事実が認められるであり、これらを全体的に判断すると、本件売買は、本件会員権の価格の下落による損失を譲渡損失として申告することにより所得税の還付を受けるために、あたかも真実の売買取引がされたかのように形式を整えたものにすぎず、真実の売買意思の伴わない仮装のものであることを、優に推認することができるものというべきである。

(二) なお、原告は、本件売買が真意に基づくものであるとして、前記のとおり主張するが、平成八年二月九日から同年六月二二日までプレーしていないことは、本件売買を真実らしく見せる必要があることを考慮すれば当然のことであって、前記認定と矛盾するものではないし(なお、本件確定申告が平成八年二月二六日であったことにも着目されなければならない。)、また、甲七号証、乙二六号証によれば、Dからの融資を、原告が平成七年一二月二六日に返済したことが認められるもの、右融資の返済期限は、元々平成八年三月五日であり、平成七年一二月二六日に返却しなければならない理由がないこと(原告が融資元のDに平成八年一月に転籍するといっても、原告は、それ以前から出向によりDで勤務しており、即刻、弁済期前に全額返済しなければならない必要性は認められない。)、原告にとって、平成七年一二月末に、Fから、相当額の退職金が支払われることが十分予測できたと考えられるにもかかわらず、未だ履行期限の来ていない債務を支払っていることなど、不自然な点が多く、この事実があるからといって、前記認定を左右するものとは言い難い。

(三) 以上によると、本件会員権の譲渡については、所得税法三三条一項に規定する資産の譲渡があったと認めることはできず、また、右譲渡は、国税通則法六八条一項の規定にいう事実の仮装に該当するものというべきである。

四  以上の認定判断を前提とすると、被告の本件更正処分及び賦課決定処分は、いずれも正当であって、違法な点はない。

よって、原告の本訴請求は、いずれも理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法六一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中壯太 裁判官 都築民枝 裁判官 中野宏一)

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